突然の依頼
「髙野先生、突然ですみませんが、どうしても1人着付けをお願いしたい学生さんがいるんだけど・・・」
このような連絡が、講義を受け持っている学校の先生から入りました。卒業式は目前でした。いぶかしく思い、事情を伺ったところ、「自分一人の力で卒業までこぎつけた学生さんがいるんだけど、みんなと同じ袴姿で送り出してあげたい」とのことでした。複雑な事情があるようでした。彼女は、卒業式に着る着物や袴を持っておらず、当初、「卒業式には出ない」と言っていたそうです。こうした事情に心を痛めた先生たちが結集。それぞれ自分の着物や帯や袴などを持ち寄り、彼女を着物袴スタイルで送り出してあげようとしたのです。しかし、着物類がそろっても着付けができません。そこで、着付け講師でもある私に声がかかったというわけです。私は、二つ返事でお引き受けしました。
臨時の着付け会場は、学校の保健室でした。早朝の保健室に入ると、すでに4、5人の先生たちがスタンバイしています。2人の先生が、主役の彼女の左右から髪の毛をうれしそうにクルクル巻いてあげています。「かわいい」「かわいい」と、何かするたびに先生たちから歓声が上がります。辺りを見渡すと、先生たちが持ち寄った着物、袴、長じゅばん、重ね衿、半幅帯、帯板、だて締め、腰ひも、肌じゅばん、足袋、履物、髪飾りなどが所狭しと並べられていました。これらは単なる和装ひとそろえではありません。それぞれが大切な思い出の一品なのです。例えば、振り袖は、ある先生が成人式で着た着物で、娘さんも成人式で着たそうです。その着物に学生さんが袖を通します。帯も、髪飾りも、全てが先生たちの思い出の一品であり、大切な人への愛が込められていました。早朝の保健室は温かな空気であふれています。
髪飾りを手にした先生たちは、「ここに付けたらどうかな」「いや、こっちにも付けたらいいんじゃない」などと、楽しげに笑い合っています。彼女は、多くの先生たちから祝福され、応援されていました。「人は、誰かに応援されて生きているんだなあ」「だから人は生きていけるんだ」。そんなことを感じました。しかし、私は知っています。彼女が本当にがんばってきたからこそ、先生たちがここまで応援したことを。ちゃんと先生たちは、彼女を見ていたのです。なんとステキな先生たちでしょうか。
さあ、着付けです。私の出番。まずは帯選びから。「あなたはどの帯が好き?」「私はこれがいいと思うけど・・・」「そうだ上下を逆に締めてみたらどうかな」。和服を着慣れていない彼女にとって、このようなやり取りは新鮮だったようです。
着物と帯とはかまを合わせてみました。「すごくいい!」。彼女は目を輝かせました。はかまは、着物の上にはきますので、帯は袴の上に10ミリ程度しか見えません。しかし、この10ミリがおしゃれなのです。彼女は和装の“しゃれっ気”を発見したようでした。
着付けを終えた私は、彼女に「この着物は、先生方が大切にしてきた着物だから袖を汚さないように気を付けてね」「卒業式では何回も起立することがあるから、着席したら、袖は膝の上に畳んでおくといいよ」とアドバイスして式典に送り出しました。
卒業式が始まりました。来賓のあいさつなどが続きます。彼女は着席するたびに袖を前に畳んでいました。卒業生代表のあいさつが印象に残りました。「1年の先生には不安だらけの私たちを~。また2年の先生には~。そして3年の担任の○○先生と副担任の○○先生には、実習、国家試験、就活という困難に挑む私たちに寄り添い、共に歩み、共に悩み、たくさん励ましていただきました」。代表は涙ながらに応援してくださったすべての先生たちの名前を読み上げていきました。卒業生全員が、仲間に支えられ、先生たちに応援されて今日を迎えられたことが伝わってきました。改めて「いい学校だなあ」と思いました。私の大好きな母校です。
ご卒業おめでとうございます! そして、今回、1人の学生さんを応援する仲間に加えていただきありがとうございました。人を応援すると、応援した人も幸せになれます。この日は、幸せいっぱいの卒業式でした。


☆彡お礼のお菓子たち
当日、私に届いたお礼のお菓子。先生たちからのものには
「ありがとう」の言葉がいっぱい。学生さんからいただいた
お菓子の箱には満開の桜が。希望の春。幸あれ!



学生一人ひとりを心から応援されている先生方の姿勢に心を打たれました。
そして、きっと皆と一緒に同じように卒業したいけど言い出せなかったであろう学生さんは、友達とともに旅立つことが出来て、一生の思い出になったと思います。
「応援した人も幸せになれる」幸せにしたいと想い、行動することが幸せを呼ぶのですね。
素敵な言葉をありがとうございます。
ホッコリした気持ちになりました。